2008年01月14日

衝撃だった妻の自殺未遂

2006年4月下旬。
妻が包丁を握りしめているのを見つけたとき、驚きよりも体が凍りつくような恐怖を感じたのを、いまでもはっきりと覚えています。

わたしが2005年春からの仕事の激変で疲れ、仕事の効率化を図ろうとしていたのと同じように、妻もはじめての土地での仕事に悩みを抱えていました。

妻は大変な勉強をして資格を取得し、まったく新しい仕事に就きました。
そうした妻の姿勢にわたしも感銘を受け、負けずに勉強をしようと決意したものです。

けれど妻の仕事は新規開店した店でのたったひとりの専門事務職、しかも唯一の同僚にして上司は会社の実質的なオーナーそのものの女性でした。

慣れない仕事、土地と人柄、そして運悪く度重なる行政側からの事務取扱要領改正通達。
しだいに妻のグチが際限なくなっていくのは気がついていました。

ときおり妻が漏らす「仕事を辞めたい」というグチに対しても、「無理して働かなくてもいいよ。まだ蓄えはあるし、もっといい仕事もみつかるよ」などと無責任な返答をしていた覚えがあります。
小さな喧嘩も増え、お互いにイライラしていた時期でした。
わたし自身が自分の仕事に精一杯だった、というのは言い訳にしかなりません。

そしてついに、わたしはやってはいけないことをしてしまいました。

果てしのない妻の仕事のグチに腹を立てたわたしは、「そんなにイヤならさっさと辞めればいいだろうが!」と怒鳴りつけてしまったのです。

珍しくなにも言い返さなかった妻がキッチンに向かい、そこで立ったままうつむいて固まっている彼女の後ろ姿にしばらくしてから気がつきました。

なにか、漠然とイヤな予感にとらわれて妻に近づいてみると、両手で握った包丁を自分の腹に向けているのです。

「なにやってるんだ!」先ほど怒鳴りつけたのとはまた別の大声をあげて、わたしは妻から包丁を取り上げました。彼女は包丁をきつく握りしめていたので手から外すのには苦労しましたが、抵抗はしませんでした。

そして、静かな、落ち着いた声でこうつぶやきました。
「やっぱり、死ぬのは怖くてできなかった……」
この言葉を、わたしは忘れることができません。

背筋が冷たくなる恐怖、驚愕、そしてここまで追い詰められていた妻の心情に気がつかなかった自分のふがいなさ、情けなさ……様々なものが、この記憶には結びついています。

もうこれ以上いまの仕事を続けたら妻は本当に自殺してしまう。
そう確信したわたしは仕事が休みだった翌日、彼女を説得して誰もいない職場に行きました。
鍵はいつも預かっていたので、勝手に入り込んで私物をすべて持ち出し、遠く離れた実家へと帰しました。
以前にも一度あったのですが、癇癖持ちの女性オーナーが退職を思いとどまるよう直接説得にくるのを避けるためでした。

2週間ほど実家で静養して、妻は帰ってきてくれました。
正直いって、このときも「彼女はもうオレのところにもどってきてくれないんじゃないか」と不安に思っていたことを覚えています。
それは、1年半後に現実のものとなってしまいましたが……。

しばらくして引っ越しをして、妻がうつ病であることがようやく診断されました。
それで、わたしは『ツレがうつになりまして。』を読んだりしてすこしでも彼女のことを理解しようと努めたつもりです。

もっとも、わたし自身がうつ病となったいまでは、書物やインターネットの情報などで患者の心情を理解することはとても難しいことだとわかっていますが。

5月以降になると、妻も薬ですこし落ち着いたように見え、またしてもわたしは自分自身の仕事の効率化やモチベーションを上げることばかり考えるようになりました。
そして妻がいうには、引っ越して電車通勤になりはじめたころから、わたしもうつ病の傾向を示しはじめていたということです。



追記:

今回の「妻の自殺未遂」の記憶を掘り起こすことは、やはり大変な苦痛でした。
それは最終的に妻に愛想を尽かされることとなる「妻への思いやり不足」を再認識させられることだからです。

離婚から1ヶ月半が過ぎ、ようやく落ち着いてはきました。
妻のことを思い出すときも、単に「よい思い出」としてだけ考えるようにつとめています。

けれどやはり「忘れてしまう」ことだけはできないのですね。
であればこそ、このつらい記憶からなにかを得たいとわたしは考えます。
いつか、成熟したまともな人間になるために。

posted by スドウ@うつ病サラリーマン at 21:14 | Comment(0) | TrackBack(0) | うつ症状
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